これまで実店舗での販売や卸売が中心だった食品メーカーも、EC化(ネット販売)によって新規顧客の獲得や販路拡大を通じた売上アップを実現するケースが増えています。
とくに近年では、「ふるさと納税」や「産地直送型のEC」などのプラットフォームが充実し、小規模な事業者でもECに参入しやすい環境が整ってきました。
この記事では、食品業界がEC化によって得られる具体的なメリットや抽象的な成功事例を交えながら、これから参入を検討する企業が押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。
食品メーカーがEC化するメリット
食品メーカーがEC化を進めることには、単なる販売チャネルの追加にとどまらない多くのメリットがあります。ここでは、重要な 3つのメリットを紹介します。
1. 地域販売から全国販売へ
これまで地域限定で販売していた商品も、全国の新しい顧客層に届けられるのがEC化の大きな強みです。
特に近年注目されているふるさと納税や産直EC(食べチョク、ポケマル等の、生産者と消費者を直接つなぐ仕組み)を活用すれば、これまで接点のなかった消費者にもリーチすることが期待できます。
また、卸や店舗での販売と並行しつつ、一部の商品を自社ブランドとして直販することで、中間マージンを抑えることで、利益率を高めやすくなります。
さらに、季節商品や限定セットなどをオンラインで展開することで、イベント需要や新規需要を取り込むなど新たな収益機会を生み出すことも可能です。
2. 顧客データの活用による関係強化
ECでは購入者の基本情報に加え、購入頻度や購入商品の傾向といったデータを直接得られるため、より精度の高いアプローチが可能になります。
例えば、購入後にお礼メールを送るだけでなく、過去の購入履歴をもとに「好みに合う商品」を提案したり、リピーター向けの限定セットを案内したりすることができます。
また、特定の時期にまとめ買いをする顧客に合わせて、季節限定商品の情報を届けるといったタイミング施策も有効です。
こうしたデータ活用に基づく取り組みによって、「一度きりの購入客」を「繰り返し買ってくれるファン」へと育成できます。
実際に、多くの食品メーカーが購入後のフォローや商品提案をデータに基づいて行い、長期的に売上を支えるリピーター(=LTV:顧客生涯価値の高い顧客)を伸ばしています。
3.ブランド価値の向上
スーパーや量販店での販売では、多くの商品と並ぶ中で価格や知名度で選ばれてしまうことが少なくありません。一方でECでは、「産地の魅力」「つくり手の想い」「商品のストーリー」をじっくりと発信できます。
例えば、産地の自然や地域の風景を写真や動画で紹介したり、生産者のこだわりや開発秘話をインタビュー形式で伝えたりすることが可能です。
こうした背景の情報をECサイトやSNSで共有することで、単なる商品の魅力だけでなく、“ブランドとしての世界観”を伝えることができます。
このようなメリットがあることから、食品メーカーにとってEC化は、売上拡大だけでなく顧客との関係づくりやブランド育成にも直結する戦略的な取り組みとなります。
EC化の成功事例
EC化に成功している食品メーカーには、共通する特徴があります。
ここでは成功パターンをいくつかご紹介します。
ふるさと納税でファンを獲得
ある地方の味噌メーカーは、ふるさと納税に出品したことをきっかけに、ECを通じて都市部のユーザー層にアプローチ。
課題は「地域のスーパーや道の駅でしか販路がなかった」ことでしたが、返礼品として全国に発送することで新規顧客を開拓しました。
返礼品として一度購入されたあとも、「美味しかったから」「また食べたいから」と自社ECサイトでのリピート購入に結びついた例です。
サブスクモデルで安定収益を確立
地方の豆腐メーカーは、「毎月届くお試しセット」を定期便として販売開始。
課題は「来店に頼る売上で安定性がない」ことでしたが、ECの定期購入機能を使って安定した売上基盤を築くことに成功しました。
サブスクはリアル店舗では難しいですが、ECなら顧客管理と配送の仕組みを組み合わせて実現できるのが強みです。
特産品を全国区ブランドへ
知名度の低かった特産品が、SNSや口コミで話題になり、都市部の若年層に人気が広がった事例もあります。
結果としてメディア掲載や大手モールへの出店依頼につながり、地域の小さな食品が全国区のブランドへと成長しました。
このような流れも、ECを活用したからこそ実現した販路拡大の一例と言えるでしょう。
EC化の失敗事例と回避のポイント
EC化には大きなチャンスがある一方で、取り組み方を誤ると成果が出にくいケースもあります。
ただし、多くは少しの工夫や準備で回避できるものです。ここでは代表的な失敗例とその回避のヒントを紹介します。
1. 目的を曖昧にしたまま始めてしまった
「やれば売れる!」と、とりあえずECサイトを作ったが更新が続かず、気づけば放置してしまったという事例は少なくありません。
多くの場合、“なぜECに取り組むのか”という目的が不明確なまま動き出してしまうことが原因です。
- 地方の特産品を広く知ってもらう(認知拡大)
- 既存の卸や店頭販売を補完する販路を持つ(リスク分散)
- 季節商品や限定セットを販売する実験の場にする(新商品のテストマーケティング)
- 顧客データを収集し、将来の商品開発や販促に活かす(情報活用)
など、EC化の目的は様々考えられます。まずは「自社がECに取り組む理由」を明確にし、小さな目標を一つずつ設定して進めることが、継続と成功につながります。
また、ECを始めても、担当者が決まっていなかったり、知識や経験のない人が片手間で運営を担ったりすると、効率が悪く成果が出にくいケースがあります。
商品登録や発送対応に追われるばかりで、肝心の集客や顧客フォローに手が回らず挫折してしまうことも少なくありません。
まずは責任を持つ担当者を明確にすることが大切です。
そして、進め方に迷ったら、専門家に相談して方向性を確認するのも安心です。外部の知見を取り入れることで無駄な労力を減らし、効率的に成果を出しやすくなります。
2.競合調査や販売戦略の準備不足
ECサイトを立ち上げる際、競合調査や販売戦略を十分に練らないままスタートしてしまうと、思わぬ壁に直面するケースも少なくありません。
特に食品業界では、商品特性や地域性が売上に大きく影響するため、事前の設計が重要です。
食品の中でも冷凍・冷蔵品を扱う場合は、送料が大きな負担になります。
特に沖縄や北海道などからの発送は運賃が高く、販売価格を上げざるを得ない構造になりがちです。一方で、ECモールの主な購買層は首都圏に集中しているため、地域によるコストの不利がそのまま価格競争力の差につながることもあります。
また、食品カテゴリは出品数が非常に多く、似たような商品が多数並ぶ中で埋もれてしまうリスクがあります。価格帯が近い場合、「どこで買っても同じ」印象を持たれやすく、ブランドの個性が伝わりにくいのが課題です。
そのため、産地や製法のこだわりを発信する、パッケージやセット内容を工夫するなど、差別化の切り口を明確にすることが大切です。
「まとめ売りにしないと利益が出ない」一方で、「賞味期限が短く在庫を抱えづらい」という矛盾を抱えるケースもあります。
特に加工食品や生鮮に近い商品では、在庫リスクと単価のバランスを取るのが難しく、結果的に販売機会を逃してしまうことも。
このような場合は、小ロットセットの販売や定期便・予約販売など、在庫を抱えない仕組みを設計することで改善できます。
3. 見た目ばかりにこだわりすぎた
デザインや機能に投資したものの、肝心の集客や商品ページの改善がおろそかになり、売上につながらなかったケースもあります。
大切なのは華やかな見た目よりも、商品写真やレビュー、分かりやすい説明文、買いやすい導線といった“購入の決め手”になる部分を整えることです。
EC化で失敗する企業に共通するのは、「目的が不明確」「体制が不十分」「優先順位の誤り」です。
しかし裏を返せば、これらを事前に意識することで失敗は十分に回避できます。
小さく始めて成果を出すEC施策
ECの大きな魅力は、実店舗よりもコストが安く、低リスクで始められることです。
在庫や設備に大きな投資をしなくても、オンラインであればトライ&エラーを繰り返しながら改良できますし、万一うまくいかなくても軌道修正しやすいのもECならではの強みです。
「EC化」と聞くと、大がかりなサイト構築やシステム導入を思い浮かべる方も多いですが、実際に成果を出している食品メーカーの多くは、身の丈に合った小さな一歩からスタートしています。
ここでは、低リスク・低コストで取り組める具体的な施策を紹介します。
自社サイトがなくても始められる
まずは、既存のモールやサービスを活用する方法があります。
- 楽天市場やYahoo!ショッピング
- ふるさと納税サイト(ふるなび、さとふる など)
※自治体やサイトごとのルール・条件があります。
- BASEやSTORESなどの無料カートシステム
いずれも初期投資を大きくかけずに出品できるため、「まず売ってみる」環境を手軽に整えることが可能です。
また、モール型の大きな利点は、モール自体に集客力があることです。
楽天やYahoo!などでは、すでに多くのユーザーが日常的に商品を検索しているため、出店するだけで一定の流入が見込めます。
一方で、販売手数料や送料、キャンペーン参加費などのコストは発生しやすく、利益率は低くなりがちです。
これに対して、自社ECサイトを立ち上げる場合は、デザインや機能を自由に設計でき、顧客データも自社で蓄積・活用できるという大きなメリットがあります。
ただし、モールのような集客力がないため、広告運用やSNS発信など、自分で集客を行う必要があり、時間や労力の負担は大きくなります。
そのため、多くの食品メーカーは、まずはモールや無料カートで小さくスタートし、販売実績や運営ノウハウを積んだうえで、自社ECへの移行や併用を進める段階的なステップを取っています。
このように「モールで知ってもらい、自社ECでファン化する」という流れを設計することで、効率的に成果を出しやすくなります。
無理のない範囲でできる「見せ方の工夫」
EC運営を始める際に、「プロの撮影やデザインが必要では?」と感じる方も多いですが、最初から大きな費用をかける必要はありません。
スマホで撮影した写真でも、自然光で撮る・背景を整えるだけで印象は大きく変わります。
また、説明文は専門的なコピーよりも、「どんな味がするのか」「どんな人におすすめなのか」など、つくり手の言葉で丁寧に伝えることが大切です。
このように、限られたリソースの中でも“丁寧さ”と“工夫”を重ねることで、十分に魅力あるECサイトを作ることができます。
反応を見ながら徐々に拡大できるのがECの強み
ECの大きな利点は、アクセス数・売れ筋・購入者の声といったデータがすぐに見える化されることです。
「どの商品が響いたか」「どんなページが見られているか」を確認しながら、柔軟に改善できます。
大切なのは、完璧な準備よりも“まず実行すること”。小さく始め、改善を重ねることで、ECは着実に成果へとつながります。
まとめ|最初の一歩が次の売上につながる
食品業界におけるEC化は、すでに競争力を保つために欠かせない取り組みとなっています。
とはいえ、「社内に詳しい人材がいない」「時間も人手も足りない」「試してみたけど成果が出なかった」など、踏み出すにあたって悩みを抱えている企業さまも多いのではないでしょうか。
ベイクロスマーケティングでは、これまで数多くの中小食品メーカーさまのEC導入を支援してきました。
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