ECサイトを運営していると、「送料無料を実施すべきか」と考えたことはないでしょうか。
実際に送料無料を実施している競合サイトが増えるなか、「送料無料にしなければ売上が伸びないのではないか」と焦りを感じている方もいるでしょう。
ただし、送料無料が売上に与える影響は、業種や商品特性によって大きく異なります。
この記事では、送料無料のメリットとデメリットを整理しながら、送料無料の実施を検討する際のポイントをわかりやすく解説します。
判断に迷っている方は、まず本記事を参考にしてみてください。
ECにおける「送料無料」の重要性と背景
ECでの買い物は、実店舗に比べて「移動や滞在の時間を省ける」「価格が安い場合が多い」「ポイント還元など付加価値がある」といった利便性が魅力です。
しかし、そこで送料が加わると、「結局、店で買ったほうがいい」と感じる人も少なくありませんでした。
転機となったのがコロナ禍です。外出を控える流れの中で、多くの消費者が日用品から嗜好品までネット購入にシフトしました。
その際に、送料無料は単なるコスト削減ではなく、「お得にしてもらえている」「配慮されている」と感じさせる要素として機能しました。心理的な安心感や満足感を与えるこの仕組みは購買を後押しし、現在では送料無料が当たり前の基準となっています。
つまり、現在では『送料無料』が重要な購買判断材料となっているのです。
「送料無料」のメリットとは?
送料無料には購入ハードルを下げるといった基本効果に加え、次のようなメリットがあります。
- 心理的効果
- 「送料を払うのは損」という感覚を払拭し、購買決断を後押しする
- 顧客に「お得にしてもらえている」と感じさせ、満足感を演出する
- 売上面の効果
- カート離脱の防止 → CV率(コンバージョン率)
- 条件付き送料無料(例:〇円以上で送料無料)により客単価を自然に引き上げ可能
- リピートや定期購入モデルで「継続利用の安心感」を提供
- ブランド・集客面の効果
- 送料無料という言葉は、広告やSNSでの反応を高める効果があります。
- 楽天では送料無料の条件で検索可能なため、集客面での効果が期待できます。
- ポジティブな口コミやレビューを生みやすくなる
「送料無料」のデメリットとは?
一方で、送料無料を行うことは、中小事業者にとって無視できないリスクがあります。
- コスト、利益への影響
- 店舗側が送料を負担するケースが多く、利益率を圧迫する
- 商品単価が低いほど赤字化のリスクが高い
- 大量販売を前提とする大手企業に比べ、中小には負担が大きい
- 競争激化による消耗
- 送料無料だけでは差別化できず、さらに値引きやポイント施策が必要になる
- 結果として「売れても利益が出ない」薄利多売の状態に陥りやすい
- 値下げ競争に巻き込まれると、価格の下げ止まりが難しい
- ユーザー心理の副作用
- 一度「送料無料が当たり前」と感じさせると、後から有料化できない
- 送料有料化で「損をした」と感じられ、リピーター離れを招く可能性がある
- 「送料無料だから買う」が習慣化し、価格以外の魅力が伝わりにくくなる
検討する際の判断ポイント
送料無料を実施するかどうかは、勢いだけで決めるのではなく、商材の特徴・客層・利益構造を冷静に見極めることが大切です。
1. 商材特性と利益率を確認する
- 高単価・高利益率の商材:送料を吸収しても採算がとれる可能性が高い
- 低単価・低利益率の商材:送料負担が即、利益減少につながる
- 利益率の薄い商材では、送料無料=薄利多売化のリスクが大きい
2. 全品ではなく「条件付き」にする
- ◯円以上購入で送料無料
→ 客単価を引き上げやすく、送料を利益でカバーしやすい - セット購入で送料無料
→ まとめ買いを促進でき、配送コストも効率化 - カテゴリ・商品限定で送料無料
→ 販売促進したい商材や在庫消化に効果的
3. リピーター比率と配送エリアを考慮
- リピーターが多い場合
→ 送料無料が継続利用のきっかけになりやすい - 遠方への配送が多い場合
→ 一律送料無料は負担大。エリア別の条件設定を検討 - 都市圏中心・配送コスト低めの場合
→ 送料無料を実施しやすい
4. 顧客データを活用して戦略的に
- 購入履歴やエリア分布を分析し、「どの層に送料無料を適用するか」を明確に
- 無条件ではなく、利益を守りながら心理効果を発揮できるラインを見極める
- 大手モールの送料無料ルールや競合状況とも照らし合わせて判断する
4つの観点で送料無料の実施可否を判断し、利益を守るためのシミュレーションを行ったうえで、実際に試してみてください。
次のセクションでは、当社が行った検証事例をご紹介します。送料無料が売上にどのような効果をもたらすのか、その結果を見ていきましょう。
「送料無料」は効果あり!実際の検証事例を紹介
当社では、楽天市場で710円の「スプレー+詰替え1つ」のセット商品を、1,260円・送料無料で販売していました。
検索画面で競合を確認したところ、同価格帯で「スプレー+詰替え2つ」のセットを「1,240円+送料740円」で販売している店舗があり、金額の部分だけを見ると安く、詰め替えも1つ多いのでお得に見えるのではと考えました。
そこで送料を別にして、「710円+送料550円」とすれば、価格だけで安いと感じてもらい売れるのでは?」と考え、実際に試してみました。
加えて、店舗内に買いあわせできる商品の導線を設置して、組み合わせ購入で送料無料にしてもらう戦略も立てました。
結果は予想外で、アクセス数も転換率も大幅ダウン。
楽天市場の検索画面では、
- 送料無料時 → 「1,260円 送料無料」
- 送料別時 → 「710円+送料550円」
と表示され、合計金額は同じでも「送料が別でかかる」印象が強くなり、選ばれにくくなったのです。そして、買いあわせもなく、複数購入されるケースも少ないことが分かりました。

この事例から、ユーザーは価格の総額よりも送料がかかるかどうかに敏感で、送料別だと損をしている印象を持ちやすいことがわかりました。
「送料無料」は万能ではないが戦略次第で武器になる
送料無料は、多くのユーザーにとって魅力的に映り、購入の後押しやリピート促進につながる施策です。
その背景には、「送料を払うのはもったいない」「別料金がかかると損をした気になる」といった、人が本能的にもつ心理が大きく影響しています。
一方で、送料無料を実施すれば必ず売上が伸びるわけではなく、コスト負担や価格戦略の見直しが必要になります。場合によっては利益を削り、薄利多売に陥るリスクもあります。だからこそ、「なんとなく実施する」のではなく、自社の商材特性・顧客層・競合状況を踏まえた戦略的な判断が欠かせません。
また、全品一律で適用するのではなく、一定金額以上購入・セット販売・期間限定など条件を設けることで、心理的効果を活かしながら利益を守ることが可能です。
送料無料は万能な施策ではないものの、正しく設計すれば、売上向上と顧客満足の両立を実現できる強力な施策となり得ます。重要なのは、メリットとデメリットを正しく理解し、自社に合った方法で活用することです。本記事の内容を参考に、自社にとって最適な形を見つけてみてください。





